May 11, 2010
結婚式の会場は、結婚式のイメージ
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大阪地検特捜部の押収資料改竄(かいざん)事件で、証拠隠滅罪に問われた元主任検事、前田恒彦被告(43)を懲役1年6月とした12日の大阪地裁判決の要旨は次の通り。(呼称・敬称略。肩書は当時)
■事案の概要
本件は大阪地検特捜部の検事だった被告が、主任検事として担当していた厚生労働省課長・村木厚子や同係長、上村勉らに対する虚偽有印公文書作成事件の証拠物であるフロッピーディスク(FD)内の文書ファイルの最終更新日時(プロパティ情報)などを改変したという証拠隠滅の事案である。
■被告に不利な事情
被告は文書ファイルのプロパティ情報やファイル内の文書データの並び順が、検察庁内の事件の見立てとは整合しない内容であることを承知しつつ、そのことを上司らに告げないまま村木らを逮捕し、起訴している。しかも、被告は起訴後に証拠品の還付手続きを進めようとしたところ、FDが検察官の立証を弾劾する証拠として公判に持ち出されて審理が紛糾することや、報告を怠っていたことを上司から叱責されて信頼を失うことをおそれ、開示の対象となる手持ち証拠からFDを排除すべく犯行に及んだうえ、改変したFDを上村に還付した。
そもそも公益の代表者である検察官には、起訴した事件について、その有罪立証の妨げになる消極証拠とも誠実に向き合い、これを隠蔽(いんぺい)したりしない公正な態度が厳に求められている。にもかかわらず被告は、先の動機に基づき、被告によれば「いやらしい証拠」であるFDについて、自らの行為が証拠隠滅に当たることを十分に認識しながら改変に及んだ。主任検事の肩にかかる重圧があったにせよ、極めて短絡的で、検察官の行為として常軌を逸している。
被告は高機能ファイル管理ソフトを用いてプロパティ情報を書き換え、さらに文書ファイルの順序を並び替えてもいる。改変は特別な解析プログラムを用いなければ判別することができないほど巧妙で、非常に悪質だ。
弁護人は、村木らの事件における公的証明書について「文書ファイルを直接、印字して作成したものとは特定できないから、FDは村木の有罪・無罪を決定づける証拠とはいえず、村木らの公判に影響を与えていない」などと主張する。
しかし、たとえ特定できないにしても文面は同一であり、文書ファイルにより印字された可能性があるというだけで、検察官の立証を十分、弾劾しうる消極証拠となる。現に村木に対する確定した無罪判決では、村木の関与を否定する上村の公判供述が信用できる根拠として、改変前のプロパティ情報が挙げられている。だとすると、FDは村木の主張を裏付ける重要な客観証拠と評価できるものである。
同事件では、改変前のプロパティ情報を記載した捜査報告書が作成され、その存在が明らかになっていたが、仮に捜査報告書が作成されていなければ、上村の供述を裏付ける重要な客観証拠が表に出なかった可能性が高く、村木に対して重大な不利益が生じるおそれがあった。
このような重要証拠の改変がまかり通れば、真相解明と適正な刑罰権の行使という、刑事訴訟の目的を遂げることができなくなるのであり、本件犯行は、刑事司法の根幹をも破壊しかねない所業として極めて強い非難に値する。本件が検察庁のみならず、刑事司法の公正さに対する国民の不信を招いたことも、顕著な事実だ。
さらに被告は、改変の経緯について虚偽の報告書を作成したうえ、検察庁の内部調査でこれを示して虚偽の説明をしており、犯行後の行動も芳しくない。
■被告に有利な事情
被告は逮捕直後から事実を認めており、刑事司法に対する不信を招いたことを自覚し、自らを「万死に値する」と評したうえ、「人間としてやってはならないことをした」などと述べ、村木ら事件関係者に対しても「みなさまに申し訳ない」と謝罪するなど、深い反省の態度を示している。そして、被告の妻や姉らが社会復帰を待ち望んでいると述べた陳述書を提出しているほか、大学時代の恩師ら多数の知人が被告に対する寛大な処分を求めて嘆願書を書いており、司法修習時代からの友人も、周囲と協力して被告を支援していくと公判で述べている。被告に前科・前歴はなく、本件で懲戒免職処分を受けており、今後も引き続き、社会的制裁を受けることが予想される。また、被告には扶養を必要とする2人の子がいることも指摘できる。
■総合判断
本件は主任検事として事件を統括していた現職の検察官が、担当事件の客観証拠の内容を、検察官に有利な方向に改変したというわが国の刑事裁判史上、例を見ない犯罪であり、刑事司法の公正さを揺るがした犯行の悪質性はもちろん、社会に与えた衝撃の大きさも重く考慮せざるを得ず、刑事責任は誠に重大だ。被告にとって有利な事情を考慮しても、本件が刑の執行を猶予すべき事案とは認めがたい。
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